
英紙インディペンデントはこのほど、イギリスで暗号資産(仮想通貨)投資家を狙った「仮想通貨強盗」が急増しており、犯罪者が被害者のスマートフォンを奪い、資産を盗む手口が横行していると報じた。
その中のひとつ、トビー・アトキンソン氏(仮名)のケースでは、彼が仕事帰りに立ち寄ったバーから帰宅する途中、ロックされていないスマートフォンを強盗に奪われた。
被害者は警察に通報したものの、対応した警官はまったく役に立たず、適切な捜査が行われなかったと語った。さらに、被害者は警察から冷たく扱われ、真剣に取り合ってもらえなかったと不満を漏らしている。
アトキンソン氏は、16歳の誕生日に母親からもらった100ポンドをきっかけに仮想通貨投資を始めた。現在30歳の彼は、早期に投資を始めたことが功を奏し、その資産を「100万ポンド以上」にまで増やしたと語る。
同氏は奪われたスマートフォンを取り戻そうと路地裏で強盗を追跡したが、そこでナイフとマチェーテを持った2人組のギャングと対峙することになったという。その後40分にわたり、強盗らはアトキンソン氏の仮想通貨アプリを操作させ、最終的に75万ポンド(約100万ドル)もの資金を引き出させた。
さらに、アトキンソン氏は、普段は仮想通貨を「コールドストレージやUSBスティック」に保管していると主張。しかし今回は、住宅購入の頭金として資金を引き出していたという。
「これは単なるお金の問題ではありません。携帯電話には、私が個人的に大切にしていたあらゆるデータが保存されていました。私は肉体的にも精神的にも暴行を受けたと感じました」と述べた。
同様の被害に遭ったのが、「5桁の金額を投資していた」サム・ケリー(仮名)だった。
同氏はウーバーを呼んで帰宅しようとしていたところ、不意に1人の男が彼の横を走り抜け、ロック解除されたスマートフォンを奪い取った。驚いたケリー氏はすぐに追いかけようとしたが、気づけばさらに2人の男が背後から迫っていた。
ケリー氏は急いで自宅に戻り、すぐに口座を無効化しようとしたが、すでに資金はすべて引き出されていた。「どうしてこんなに早く資金を移動できたのか、今でも理解できません」と彼は語る。セキュリティ設定は万全にしていたにもかかわらず、犯人は「携帯電話内の別の場所に保存されていたパスワード」を利用した可能性があると推測している。
イギリスでは現在、1日平均約225台のスマートフォンが盗まれているが、最近では窃盗犯が特に仮想通貨アプリを標的にするケースが増えている。
「Attack of the 50 Foot Blockchain」の著者であるデイビッド・ジェラード氏は、これについて「オンライン銀行口座と違い、仮想通貨アプリはまるで“持ち歩く金塊”のようなものだ。非常に脆弱で、一度送金されると取り消しができない。ポケットに1万ポンドの現金を入れてパブに行く人はいないだろう。それと同じように、仮想通貨も慎重に扱うべきだ」と指摘する。
一方、アトキンソン氏とケリー氏は警察に被害を報告したものの、役に立たない対応に失望したと語った。しかし、英国の国家警察本部(NPCC)サイバー犯罪プログラムの元暗号リーダーであり、現在はTRM Labsの英国公共部門関係ディレクターを務めるフィル・アリス氏によると、警察には盗まれた仮想通貨の追跡ツールがあり、犯人が資産を現金化しようとした瞬間に追跡できる手段を持っているという。
仮想通貨を狙った犯罪は決して新しいものではない。ガーディアン紙はすでに2年前からこの問題を報じており、それ以来、窃盗犯の手口はますます巧妙化している。
また、今年1月には、英国で仮想通貨投資家を誘拐・拷問・恐喝したギャングのメンバー7人が長期の懲役刑を言い渡された。この事件は、法執行機関が解決した仮想通貨関連犯罪の一例に過ぎない。
#JAILED | Criminal gang who kidnapped vulnerable man for cryptocurrency jailed for 76 years
Today (Thursday 30 January) the men appeared at Manchester Crown Court to be sentenced for their roles.
More: https://t.co/RNT4WVaIGn pic.twitter.com/GaIWLPsgdB
— Greater Manchester Police (@gmpolice) January 30, 2025
一方、ケリー氏は金融オンブズマンサービスと、自身が利用していた2つの匿名のアプリ運営企業に苦情を申し立てた。しかし、厳重なセキュリティ対策を施していたにもかかわらず、犯人たちはアプリに不正アクセスし、資金を奪っていたという。それでもケリー氏は「なんとか(資金の)半分以上を取り戻すことができた」と語った。
一方で、アトキンソン氏は強盗に脅迫されながら自ら取引を行っていたため、同じような苦情を申し立てることはできなかった。
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